28才の夏だった【1】
- by シンイチ at 9月28日(月)08時53分
- Number:0928085356 Length:1477 bytes
俺は大学卒業と同時に東京の実家を出て大阪で1人暮らしを始めた。東京の会社に就職したけど地方配属を希望して大阪に配属された。実家と言っても俺と母親の2人で暮らしてた。父親は俺が小学生の頃に母親と離婚して慰謝料代わりに家を俺達に残して出て行った。毎月いくらかの生活費を送ってくれてたけど俺はそれ以降1度も父親と会わなかった。姉貴は結婚して東京の別の町に住んでたけど母親は俺の就職を機に家を改造して姉貴夫婦を呼び寄せた。俺に帰る家はなくなった。でも、逆に大阪で生きて行く決心がついた。交友関係を1から作るのは大変だったけど徐々に大阪暮らしにも慣れた。大阪で知り合った女と26才の夏に結婚した。いわゆるデキ婚だった。その頃はゲイの要素なんて少しもなかった、と思う。
結果的に俺は父親になれなかった。俺が反対するのを聞かないで自転車に乗って出会い頭に他の自転車と衝突して転んで打ち所が悪くて流産。彼女は性格が変わってしまったし、何より結婚を急いだ理由がなくなった若い夫婦には溝が生まれてしまった。それでも俺は頑張って働いたし、また妊娠する日を待てばいいと思ってた。でも、彼女は妊娠するのが怖いと言って夜の誘いを拒んだ。なんとか2人の生活は続いたけど27才の夏、離婚した。あまりにも一方的な理由だった。要は妊娠したから結婚したけど妊娠してなかったら結婚もなかった。だから離婚してほしい、と。裁判で慰謝料請求しろ、と姉貴や会社の仲間に言われたけど財産分与をしない事を条件にハンコを押した。
女は理解できない。次の彼女は当分いいや。俺の本心だった。女の子がいる店で飲む事はあっても性欲処理は自分だった。そんな状態が続いて1年が経った頃、高校時代の友人トオルから電話があった。28才の夏だった。
28才の夏だった【2】
- by シンイチ at 9月28日(月)08時54分
- Number:0928085459 Length:1444 bytes
大阪転勤が決まったトオルは部屋探しを手伝ってほしい、と。高校卒業後も大学時代は何度か会ったけど大阪に引っ越してからはトオルだけじゃなくて誰とも会ってなかった。結婚した時にはハガキで知らせたけど離婚は言ってなかった。どんな顔で会えばいいのか不安だったけど、トオルは大阪に来た。新大阪駅まで迎えに行った。俺はトオルを見た瞬間に泣いてしまった。少し複雑な家庭環境で育って1人で大阪に移って半ば意図的に過去を封印して新しい生活を始めて結婚して離婚して・・・。俺は精神的に弱ってたのかもしれない。とりあえず俺んちに着いて俺は父親の事、実家に戻れない事、結婚の事、離婚の事、トオルに話した。トオルは俺を抱きしめた。エロい感じじゃなくて父親が子供を包むみたいに自然だった。その後で俺はトオルから意外な話を聞かされて人生が変わって行った。
「高校生の頃、俺はお前の事が好きだった。今もお前の事が好きだ。だから、だから・・・、俺はお前を放っておけないから、大阪に来る事にした。」
何?何を言ってんだ?好きって、俺も好きだけど、それって、同じ「好き」?俺は返事ができなかった。困った顔の俺にトオルは続けた。
「俺はお前に会ってから女を好きになれないんだ。お前がきっかけでゲイになったんだ。その気持には応えてくれなくてもいいけど、今のお前は放っておけないんだよ。だから自分から大阪転勤を希望したんだ。」
トオルは全て知ってた。情報源は言わなかったけど姉貴だったと思う。トオルの告白は不思議と嫌じゃなかった。精神的に弱ってたからかもしれないし、もしかしたら俺の精神状態を逆手に取っての告白だったのかもしれない。とにかくトオルが俺を恋愛対象として見てた事実を受け入れた。
28才の夏だった【3】
- by シンイチ at 9月28日(月)08時55分
- Number:0928085552 Length:1460 bytes
俺「俺はどうしたらいいんだ?」
ト「昔のお前に戻ってくれればいいよ。」
俺「いや、そうじゃなくて・・・、その・・・、」
ト「俺が勝手に好きなんだからお前はお前でいいんだよ。」
俺「でも・・・、男とセックスした事もあるの?」
ト「あるにはあるけど、体だけのセックスは虚しいから好きじゃないかも。」
俺「じゃあ、男とつき合った事は?」
ト「ないよ、言っただろ?昔も今もお前が好きなんだ。」
俺「それって、切ないな・・・。」
ト「お前が言うな(笑)。」
トオルが笑った。俺も笑った。俺は何かから解放されたみたいな気持だった。同時にトオルの事をもっと知る必要がある気がした。ゲイ向けのネット掲示板がある事を初めて知った。トオルは俺の代わりになる相手を探した時期もあって、何人かの男と出会っては別れて、結局は誰とも恋愛に発展してなかった。
俺「じゃあ、今は?」
ト「今って?」
俺「やりたい時もあるだろ?ソープみたいな店があったりするの?」
ト「あるけど行かないよ。右手で充分満足できる(笑)。」
俺「そっか、俺も右手だけ。愛のないセックスって結局オナニーだから、だったらオナニーでいいし。」
ト「だよな。」
俺「男同士のAVとか見て?」
ト「ネットで動画見たりするけど、最終的には・・・、お前だよ。」
俺「俺?」
ト「お前の裸とかオナニーを想像すると興奮したり・・・、って言わせんなよ。」
好きになった相手にたまたま家族があった、とか不倫の言い訳をする場面をドラマか何かで見た事があるけど、トオルも同じなんだなあ、と思った。好きになった相手がたまたま男だった。その本人にしかわからない苦悩があるだろうし、買物に行くとか映画に行くとか普通のデートもままならないのは不倫も同性愛も同じだろうし。
28才の夏だった【4】
- by シンイチ at 9月28日(月)08時56分
- Number:0928085651 Length:1708 bytes
俺「そう言えばデジカメ持って来た?」
ト「おお、持って来たよ。部屋探しの必需品って言われたし。」
俺「部屋探しの前に・・・、俺を撮らないか?」
ト「お前を?」
俺「もう俺の裸やオナニーを想像しなくていいよ。」
ト「は?何言ってんだ?」
俺「いいからデジカメ出せよ、俺、今からAV男優になるから。」
俺はベッドの縁に座ってトオルを見た。でも、トオルは動かなかった。
俺「お前が拒否すると言い出した俺の立場がないだろ?」
ト「だけど、無理してないか?」
俺「普通じゃないかもしれないけど、無理してないよ。」
ト「でも・・・。」
俺「平気だよ、いつも通りオナニーするだけだから。」
ト「俺もやりたくなっちゃうから、いいよ。」
俺「じゃあ、お前はコンビニでも行って来て。その間に・・・。」
トオルは渋々出て行った。俺はテーブルにデジカメを置いて動画撮影のボタンを押した。カメラ目線でトオルに話しかけながらシャツを脱いだ。見られる前提のオナニーなんて初体験だったから妙に興奮した。でも、ジーンズを脱いで下着を脱ぐ瞬間はデジカメに背中を向けた。ベッドの手前で全裸になった俺の後ろ姿をトオルは見るんだろう。そのままベッドに乗ってオナニーを始めた。徐々に正面を向いた。デジカメの向こうのカガミに恥ずかしい姿の俺が写ってた。俺はトオルのためにオナニーをしてる。その自分の選択が正しいような気がしてた。この動画を見たトオルがオナニーする場面を想像した。もしかしたらトオルを受け入れる事ができるんじゃないか?俺の興奮はマックスになって発射した。目の前で見られるより恥ずかしい気がした。イッた瞬間に1人だった。それが不自然に思えた。トオルが帰って来た。俺はデジカメを渡した。
俺「なあ、部屋探しに行くの、やめないか?」
ト「ダメだよ、今日しか時間ないんだから。」
俺「ここに住めばいいよ、部屋もあるし。」
ト「本気で言ってる?」
俺「家賃は貰うよ、結構ローンがキツいから。」
ト「ここ、賃貸じゃないの?」
俺「結婚した時に買ったんだよ、中古だけど。」
28才の夏だった【5】
- by シンイチ at 9月28日(月)08時58分
- Number:0928085801 Length:1645 bytes
俺とトオルは一緒に暮らし始めた。トオルは俺が撮った動画を見ないまま削除してた。でも、それはそれでトオルらしい行動だと思った。トオルが引っ越して来て、大事にしてる写真を見せてくれた。高校の修学旅行の写真だった。大浴場で撮られたその写真はトオルと同級生が裸で腰にタオルを巻いた格好で笑顔でVサインしてた。その奥にケツ丸出しで歩く俺が小さく写ってた。
俺「この写真、持ってないよ、俺。」
ト「データあるからプリントできるよ。」
俺「いや、そうじゃなくて、俺のケツ!」
ト「はは、お前の初ヌード写真?」
俺「これ、こいつ(トオルの横の同級生)も持ってんだろ?」
ト「大丈夫、渡してないから。」
俺「もしかして、このケツ見て・・・?」
ト「そんな事もあった、かな(笑)。」
俺「なあ、お前さえ、よかったら・・・。」
ト「何?」
俺「お前だから言うんだけど、お前の前でオナニーしてみたい。」
ト「またその話?」
俺「動画は消されちゃったけど、あれ撮りながら思ったんだよ。」
ト「何を?」
俺「だから、お前に見られながらオナニーしたいんだよ。」
ト「どして?」
俺「わかんないけど、イク瞬間を見てほしいんだよ。」
ト「何言ってるか、わかってる?俺はお前が好きなんだよ。ゲイなんだよ。」
俺「だから、一緒にオナニーしようよ。」
ト「俺も?」
俺「男同士のセックスには抵抗あるけど、考えてみたら、さ。」
ト「ん?」
俺「例えば向き合ってオナニーするのも相手によってはセックスと同じかな、って。」
ト「まあ、そう言われればそうかもしれないけど。」
俺「だから、お前とセックスするつもりでオナニーしたいんだよ。」
ト「撮影はしないぞ(笑)。」
俺「トオル、お前が大事だよ、俺は。」
ト「俺も。」
今、33才の夏が終わろうとしてる。恋愛とも友情とも違う、もっと深いつながりだと思う。俺とトオルは今も一緒に暮らしてる。挿入を伴うセックスは1度もしてないけど、たまに一緒にオナニーする。それでいいと思う。