H 体 験 ? 談 掲 示 板


  • 《最新の投稿から5件》

1645ルネでE(完結)

  • by Linus at 4月27日(土)15時24分
  • Number:0427152458 Length:1287 bytes

拓弥は僕の胸を指さしながら、
「じゃあ今日はそこで泣かせてよ。僕はもう1人で泣くのは嫌や。この悲しみを分かち合える人と泣きたい。」

なんていう殺し文句だろうと思った。僕だって拓弥を抱きしめてやりたかったし、彼に抱きしめてもらって泣き出したかった。でも今拓弥に触れたら、近付いたら、自分の決意が崩れてしまうことは明らかだった。
「そんなこと、言わないでよ…。」
と絞り出すように言うと、抑えることのできなくなった嗚咽がこぼれ出した。
しばらく僕の泣き声と、時おり拓弥が鼻をすする音だけが響く部屋の中、2人とも動けずにいた。全身に痛いほど拓弥の視線を感じたけれど、僕は結局顔を上げることができなかった。最後に拓弥が立ち上がる気配がして、何か呟いてドアの向こうに消えていってしまった。コタツの上にはパックに入ったままのケーキがそのままに置かれていた。
あのとき拓弥は何て言ったのか。ごめんね、と聞こえた気もするし、うそつき、と聞こえた気もする。今となっては本当のことはわからない。

それから1年以上拓弥を大学内でも見かけることはなかった。翌年の学園祭で、アカペラサークルのパフォーマンスで歌っているボーカルの顔を見たとき、息が止まるかと思った。拓弥が、歌っている。

いなくなった恋人に向けた歌。
もう会えぬ人を花になぞらえた、美しいバラードだった。
僕は群衆に紛れて隠れながら、逃げるようにその場を去った。今でもあの歌を聴くと、違う選択をしていたら、拓弥は僕のそばにいてくれたのだろうかと考えてしまう。


1645ルネでD

  • by Linus at 4月27日(土)15時23分
  • Number:0427152319 Length:1748 bytes

僕からの連絡をしないままにしていたある日、拓弥の方から明日そっちに夕食後のデザートを一緒に食べに行ってもいいかとメールが届いていた。僕はOKの返事と一緒に、話したいことがあると書いて返信した。拓弥からそれ以上の返信は返ってこなかった。
次の日の夜8時を回った頃、拓弥は2つ入りのケーキを持って部屋にやって来た。僕がドアを開けるとあの朝のように目を細めて、ふわりと微笑みを浮かべた。黒い癖毛はまだ少し湿っていて、ふわっとシャンプーのいい匂いがした。僕は自分の下半身がぞくりとなるのを感じた。
拓弥はすっかりその気で、準備して来ている。先日僕を飲み込んで翻弄したあの快楽と興奮の渦は、僕の目の前に広がっている。

僕は世界の分岐点にいた。このまま「あちら側」の渦に飛び込むのか、それとも「こちら側」に留まって普通の幸せを望むのか。

「たくみ、今日はもう、帰って。」

僕はこちら側に残ることを決めた。こんな爛れた、堕落した、後ろ暗い行為に身を染めてはいけない。僕が歩くのは日の当たる、明るくて広い道であるべきだ。
拓弥はじっと僕の目を覗きこんで、どうしてと短く訊ねた。
「僕はもう、普通の人生を生きるって決めたから。こんなことしてちゃ、ダメなんだ。普通じゃないよ。」
拓弥は相変わらず僕の目を睨みつけるような強さで覗きこんできて、今度は僕の方が目を逸らすことになった。
拓弥は僕の方に顔を向けたまま、震える声でこう言った。
「僕はあの日、初めて孤独じゃなくなって、しかも出会えた仲間が君で、本当にとても幸せやと思った。君も同じ気持ちでいてくれてると思ってた。」
それは間違いない。僕もあの日、初めて孤独を分かち合える仲間に出会えたと思ったし、今までの人生で味わったことのない幸福を覚えていた。でもそれを今認めたら、なし崩し的にこの関係を続けてしまうような気がして、何も言わなかった。
しばらく重い沈黙が流れた後、
「わかった。」
と拓弥が呟いた。あの短い説明で僕を責めたり、なじったりすることなく、こちらの意図を汲んでくれた。少しほっとしたが、続く言葉が僕の胸を貫いた。


1645ルネでC

  • by Linus at 4月26日(金)18時41分
  • Number:0426184136 Length:1141 bytes

昼前くらいまでそうしてうとうとしていたけど、サークルの練習に行かないとダメだと拓弥が言うので、僕たちは交代にシャワーを浴びた。また連絡する、と拓弥を見送った後でコタツの上を見ると、そこには確かにカップが2つ置いてあって、昨夜のことが確かな現実だと告げているようだった。

その週末に両親が東海から上洛して僕の下宿を訪れた。キレイにしてるじゃない、などと言いながら部屋の中を見回す母の目にはどこか俗な、好奇の色が浮かんでいた。どこかに女の痕跡でも見つけてやろうと必死になっているような気がした。
もう定年退職した父は言葉少なに、飯は食べているのかと訊ねただけだった。自炊したり食堂に行ったりしていると答えながらふとキッチンに目をやると、あの日拓弥と一緒にカレーを食べたときの鍋が、コーヒーを飲んだカップが目に飛び込んできた。
その瞬間僕は両親にすごく申し訳ない気持ちに襲われた。歳をとってからようやくできた一粒種の僕は、年老いた2人に孫を見せてやったり、人並みの幸せを味わわせてやる義務があるのではないか。ここまで育ててもらい、生家から遠く離れた大学に通わせてもらっておきながら、放埒の日々を過ごしていてはいけないのではないか。息子を大学に、しかもそれなりに名のある大学にやって少し誇らしげで、少し寂しげな両親の様子を見ながら僕は一つの決心をした。


1645ルネでB

  • by Linus at 4月26日(金)18時31分
  • Number:0426183121 Length:1193 bytes

初めてのキスはなんだかぎこちなく、ときどきお互いの前歯がかちかちと当たったりもしたけれど、初めてタバコを吸ったときみたいに頭のどこかがぎゅっと引き攣れるような快感を感じた。
その後はお互い言葉もなく服を脱がせ合い、興味と欲にあかせて身体を探り合った。仰向けになった拓弥の右手は固く握りしめられ、左手は顔を覆っていた。
「たくみ、顔見せてよ。」
「いやや、恥ずかしい。」
かわいい、と思わず口からこぼれた。首元にキスをすると、顔を隠したままくすぐったそうに笑う拓弥。そのままキスを少しずつ胸に、お腹に、と下ろしていき、ついに硬くなって震える拓弥のものに口づけると、あっと小さく声を上げて上体を起こした拓弥と目が合った。
泣き出しそうな顔がかわいいな、と思ったけど、拓弥はすぐにまた恥ずかしさに耐えきれずに顔を隠してしまった。

結局そんな風に僕たちは一晩中、お互いに初めての感覚を確かめ合い、快楽の渦に溺れた。どっちが何で汚したのかわからない液体を身体中にまとったまま、2人ともいつの間にか眠ってしまっていた。
翌朝、隣で身じろぎする気配に覚ますと、細く目を開けている拓弥と目が合った。すると拓弥は僕の胸に頭をそっと擦り付けながら、
「なでて。」
とささやいた。黒くて少し癖のある髪を漉くようにしばらく撫でてやると、そっと顔を上げた拓弥が
「いま、めっちゃ幸せ。」
と呟いた。目尻には一粒の涙が溜まっていた。


1645ルネでA

  • by Linus at 4月25日(木)20時01分
  • Number:0425200156 Length:2214 bytes

自転車で下宿に帰る道すがら、コンビニで食後のデザートを買った。僕は生クリームの載ったプリンを、拓弥はいちご大福を。
部屋に上がった拓弥は、最初に僕を観察したように部屋の中をぐるりと見回した。そして本棚を見つけると、そこに並んだ本を精査し始めた。三島由紀夫の「仮面の告白」を見つけて、これはバレてまうんじゃない?なんて笑っていた。

夕飯の後の洗い物が済んで、冷蔵庫にしまってあったコンビニスイーツを持ってコタツに帰ってくると、拓弥はなんだか気まずそうにそっぽを向いている。お互いになんとなく甘くなってくる空気が恥ずかしくなってきている。食べる?と拓弥の前にいちご大福を置くと、最初に会ったときと同じようにこくりと頷いた。
「お茶かなんか淹れようか?」
「コーヒーってある?」
インスタントならあると言うと、じゃあコーヒー下さい、といちご大福を見つめながら拓弥がもぞもぞと言うのがすごくかわいい。

2人とも、この後に起こることを期待している。僕も、拓弥も。
湯気の上がるカップを運びながら僕はどうやって拓弥との距離を詰めようか画策する。

「たくみはコーヒー派なんだね。」
「うん、寮では毎日ちゃんとドリップしてる。」
「そうなんだ。じゃあインスタントとかじゃご満足いただけないかな。」
そんなことない、と拓弥がカップを両手で挟んだまま顔を上げた。
「誰かに淹れてもらったコーヒーは美味しい。」
そう言ってスッとひとくち飲んで、あちっと小さく呟いた後にふにゃっと微笑んで、
「うん、やっぱり美味しい。ありがとう。」
その瞬間僕の中の何かが弾けた。

気づいたら向かいに座っている拓弥の頬に手を伸ばしていた。拓弥は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに目を逸らしながらなんやねん、と掠れた声で悪態をついた。
イヤ?と訊ねると、やっぱり目を逸らしたままで小さく首を振る。
「なんでこっち見てくれないの?」
「うう、なんかめっちゃ恥ずかしい…」
「隣に行ってもいい?」
「…好きにしたらええやん。」
パッと立ち上がって隣に移って来たのに拓弥が恥ずかしがって反対側に顔を向けるから、僕は今度は両手で拓弥の頬を挟んで強引にこっちを向かせる。
「たくみ、あごのとこに大福の粉ついてるよ。」
「ええ、カッコ悪い。取ってよ。」
ほっぺたを挟んだまま親指で口の下辺りを軽く擦ってやると、拓弥はうっとりするように目を細めた。
「口のとこにもついてる。」
「じゃあそれも取って。」
僕はスッと顔を近づけて、拓弥の唇をぺろりと舐めた。驚いた拓弥の顔が後ろに下がろうとする。すかさず片方の手を拓弥の後頭部に回して逃がさないようにして、もう一度顔を近づける。拓弥はそっと目を閉じた。